近年、ダイエットや健康法として注目されている「ケトン体」。糖質の摂取を極力抑えることで、体が脂肪を分解してケトン体をエネルギー源として利用するケトーシスという状態を目指すものです。しかし、このケトン体が増えすぎることで、非常に危険な状態に陥る可能性があることをご存知でしょうか?それが「ケトアシドーシス」です。
今回は、健康的なケトーシスと、緊急を要するケトアシドーデスの違いを明確にし、その危険性について詳しく解説します。
ケトン体とは?体の代替エネルギー源
まず、ケトン体についておさらいしましょう。ケトン体とは、体がブドウ糖を主なエネルギー源として利用できない状況(糖質制限、飢餓、長時間の運動など)になったときに、肝臓で脂肪を分解して生成される物質の総称です。主に「β-ヒドロキシ酪酸(BHB)」「アセト酢酸」「アセトン」の3種類があります。
これらが血中に増えることで、脳や筋肉などの主要な臓器が糖質の代わりにケトン体をエネルギーとして利用する状態を「ケトーシス」と呼びます。適切に管理されたケトーシスは、体重減少、血糖値の安定、脳機能の改善など、様々な健康効果が期待されています。

ケトアシドーシスとは?体に酸がたまる緊急事態
「ケトアシドーシス」は、ケトン体が過剰に生成され、血液中の酸性度(pH)が著しく低下した状態を指します。これは、糖尿病、特に1型糖尿病の患者さんに多く見られる、命に関わる緊急事態です。
**健康な人や、適切な管理のもとでケトジェニックダイエットを行っている人には、通常、ケトアシドーシスは起こりません。**なぜなら、健康な人の体には、ケトン体が過剰に増えすぎないように調節する強力なメカニズム(インスリンの作用など)が備わっているからです。
なぜケトアシドーシスは危険なのか?
ケトアシドーシスが危険なのは、以下のような理由からです。
- 血液が酸性に傾く(アシドーシス):
- ケトン体は酸性の物質です。血中にケトン体が異常に増えると、血液のpHが低下し、酸性に傾きます。
- 血液のpHは非常に厳密に管理されており、わずかな変動でも体内の酵素やタンパク質の機能が損なわれ、細胞レベルで深刻な障害が起こります。
- 細胞機能の障害:
- 血液が酸性になると、体中の細胞が正常に機能できなくなります。特に、心臓や脳などの重要な臓器に深刻な影響を及ぼします。
- 電解質のバランスも崩れ、心臓の不整脈などを引き起こすことがあります。
- 脱水症状と意識障害:
- ケトン体が過剰になると、尿と一緒に糖やケトン体が大量に排泄され、水分も失われるため、重度の脱水症状を引き起こします。
- 脱水が進むと、血圧低下、意識レベルの低下、昏睡状態に陥り、命に関わることもあります。
ケトアシドーシスの主な原因
ケトアシドーシスの最も一般的な原因は、インスリンが極端に不足する、あるいは全く機能しない状態です。
- 1型糖尿病: インスリンを全く分泌できない1型糖尿病患者さんが、インスリン注射を怠ったり、感染症などでインスリンの必要量が増えたりした場合に発生しやすくなります。インスリンがないと、細胞はブドウ糖を取り込めず、脂肪を分解してケトン体を過剰に作り出してしまいます。
- 2型糖尿病の重症化: 長期間にわたり血糖コントロールが不良で、インスリン分泌能力が著しく低下した2型糖尿病患者さんにも起こる可能性があります。
- その他の稀な原因: アルコール中毒や特定の薬剤の副作用、極端な飢餓状態が続いた場合など、ごく稀に非糖尿病患者にも発生することがありますが、これは非常に例外的なケースです。

ケトアシドーシスの症状と対処法
ケトアシドーシスは急速に進行することがあり、以下のような症状が見られます。
- ひどいのどの渇き、多尿
- 吐き気、嘔吐、腹痛
- 疲労感、脱力感
- 深くて速い呼吸(クスマウル呼吸):体を酸性から戻そうと、二酸化炭素を排出しようとする反応です。
- 口臭(アセトン臭:甘酸っぱい果物のような臭い)
- 意識障害、昏睡
これらの症状が一つでも見られた場合は、すぐに医療機関を受診してください。 ケトアシドーシスは自己判断で対処できる状態ではなく、速やかな医療的介入(輸液、インスリン投与など)が必要です。
まとめ:ケトン体は適切に理解して活用を
ケトン体は、私たちの体に備わる素晴らしい代替エネルギー源であり、適切にコントロールされたケトーシスは健康に多くのメリットをもたらす可能性があります。しかし、特に糖尿病などの基礎疾患がある方が自己流で極端な糖質制限を行うと、ケトアシドーシスという非常に危険な状態を引き起こすリスクがあります。
健康な方であれば、通常はケトアシドーシスを心配する必要はありませんが、ケトン体を利用した食生活を始める際は、自身の体の状態を理解し、不安な場合は必ず医師や管理栄養士などの専門家に相談するようにしましょう。正しい知識を持って、安全にケトン体と向き合うことが大切です。